毒まんじゅう

学生諸君や、社会人になって間もない方々には実感が湧かないかも知れないが、オトナの世界には「サラリーマンNEO」さながらの不条理な出来事がつきものだ。
私が身を置くIT業界(正確にはソフトウェア業界)では、時としてとんでもない開発案件が転がり込むことがある。
赤字になることが見え見えの案件、どうやっても要求納期に間に合わない案件、こんな面子しか揃わんのですか的案件・・・etc. いわゆる「デスマーチ(死の行進)プロジェクト」になることが最初から分かっている仕事で、こういう案件を我々(というか、私と上司のKさん)は毒まんじゅうと呼んで恐れていた。


「そんな案件、引き受けずとも良いではないか」とおっしゃるかも知れないが、オトナの世界はそうは行かない。 次の受注に繋げるためだとか、そんな理由で請けざるを得ない状況下に置かれることが実に多いのである。 その裏には、例え赤字になっても社員を遊ばせておくよりはマシ、というダークな打算もあったりする。


まじぽか第11話(ぽか〜ん21)で、ゆうまが鼻をつままれ「苺果肉入り納豆ジュース」を飲まされるシーンがあるが、ちょうどあんな感じで無理矢理食わされるまんじゅうの味は、それが毒入りと分かっているだけに、また格別のものがある。 例えて言うなら、口に含んだ瞬間から舌がピリピリする感じ・・・そんな修羅場を幾つもくぐり抜けて、なおも私は生きている・・・。


何でこんな話を持ち出したかというと、昨今のアニメ制作ラッシュの陰で、一部作品のクオリティが著しく低下している、という指摘があるから。
先クールは近年希に見る多作状況で、その時から既に「アニメバブル」の危惧が囁かれていたのだが、ここへ来てそれが現実のものとなりそうな気配が出てきたようだ。
今のところその兆しは一部に留まっていて、すぐに全体に波及するかどうかはまだ判断しかねるが、取り巻く状況は「ヤシガニ」伝説誕生の頃とあまり変わらないようなので、「歴史は繰り返す」ことになる公算は高いと思う。
制作現場の痛みが伝わらないところで、無理な企画が立てられゴリ押しされていく状況は、ソフトウェアの開発現場とあまり変わらないのかも知れない。 いや、現場の痛みは分かっても、どうしようもない経済的な力学が働いて、自転車操業が強いられるのかも知れない。


アニメファンとしては誠に残念であるが、近いうちにまた、アニメバブルが弾ける覚悟をしておいた方がよさそうだ。
そしてもしそうなったら、それを乗り越えて次の興隆期がまた来ることを祈ろうか。 スタジオが残っている限り、ジャパニメーションの火は消えないことを信じて。