ディジタル技術に理解のある会社 − コロムビアミュージックエンタテインメント

k87p5612006-11-14

その伝播・普及力やインパクトの強さ、あるいは著作権の問題とも絡み日本国内の既存メディアやコンテンツホルダーからは何かと敬遠されがちな動画投稿サイト【YouTube】だが、【コロムビアミュージックエンタテインメント(6791)】では積極的に使う方針を明らかにし、実際に活用を開始している。これもひとえに同社の広瀬禎彦社長の意向であるという(【参照:NIKKEI NeT】)。

なかなか開明的な社長さんですな。
実はこの会社、日本コロムビア時代からディジタル技術に理解があって、マスター音源のPCM化を早くから推進していたのです。
下記の書籍がそのことに少し触れているので、部分引用しながらあらましをご紹介しましょうか。

図解DAT読本

図解DAT読本

その前に、DAT(Digital Audio Tape)の発端となった研究について簡単に触れておきましょう。
今は廃れてしまったDATですが、その研究開発の歴史は1960年代にまで遡ります。
東京オリンピック(1964年)用放送機材の研究開発が一段落したNHK技研では、1969年のFM本放送に向けて音質向上のための研究に取り組みます。 その結果分かったことは、音質劣化の主原因がテープレコーダだということでした。*1 *2
これによりテープレコーダのディジタル化研究がスタートし、それに目を付けたのが日本コロムビアだったというわけです。

(前略)
開発の前途はいばらの道というより言い様のないものでした. そういうなかでも,音質のよさと技術的興味とから,このディジタルオーディオ技術を砧の一角に埋もれさすのに忍びず,あれこれと思い悩むうち,幸にもダイレクトカッティング(レコード制作においてマスターテープレコーダを通さないで,ミキシングした音を直接カッティングマシンにかける方法)で良質レコードの制作を進めていた日本コロムビアがこの技術に着目し,その導入を推進しました.
(中略)
その後,これを使って同社から“PCMレコード”が商品化されました.

(p.25より)


どうです? 「なかなかやるじゃん、コロムビア」と思いません?
ところで話は変わりますが、CDのサンプリング周波数44.1kHzって、何でこんな半端な値になったかご存知ですか?
人間の可聴周波数は 20Hz〜20kHz と言われていますから、標本化定理によりナイキスト周波数は40kHzとなり、サンプリング周波数はそれ以上あればよいことになります。 44.1kHzはその条件を満たしていますが、どうして小数点以下の値がでてくるのか。
それは、当時のディジタルレコーディングシステムが、記録デバイスとしてVTRを流用していたことによります。

(前略)
いずれの場合も,標本化周波数は44.1kHz(VTRがNTSCの場合は44.056kHz)です.この中途半端な値は,信号処理をビデオ信号と同様に行い,ビデオ信号と全く同じ垂直同期および水平同期のためのパルスを利用し,それを水平走査期間の上に並べるようにするところから算出されたものです.

(p.30より)


この結果、日本コロムビアを始めとするレコード会社には、サンプリング周波数44.1kHzのディジタルマスター音源が蓄積されることになりました。

(前略)
・・・CDのマスターレコーダ用に広く使用されています.この機械がCDのソフト制作に果たした役割は大きく,もし,これがなかったら1982年のCDの発売は難渋し,今日のCDの普及にはもっと時間がかかったことでしょう.また,CDの標本化周波数44.1kHzが,このPCMプロセッサのそれからきたことをみても,その間の事情がおわかりいただけましょう.

(p.31より)


これが理由なのでした。
ちなみにDATの標準サンプリング周波数は48kHzでしたが、MD以降のディジタルオーディオ機器は人間の聴覚特性を上手く利用して、低サンプリングレート(32kHzとか)になってます。

*1:今はPCM回線の全国網が完成していますが、当時は生中継はモノラルのみでした。

*2:ステレオでの全国同時放送は、実は予め番組を録音したテープを地域毎にあるステレオパッケージ局に配り、時間を合わせて地域毎に放送していたのです。