ナブスターGPS衛星配備状況 in 1994
HDDの整理をしていたら、10年以上前に仕入れたGPS関係のデータが見つかった。
はてなやWikipediaを見てもGPS衛星についてはあまり詳しく書かれていないので、これから示す資料を説明する形で、簡単に解説してみようと思う。
この記事は、カナダの某大学に在籍している(いた?)リチャード・ラングレー氏が、1994年3月にニュースグループに投稿したものだ。
軍事機密でも何でもないが、転載にあたっては一部連絡先などを伏せている。
From: lang@(略)(Richard Langley) Newsgroups: comp.infosystems.gis,rec.aviation.misc,rec.boats,rec.radio.amateur.space,sci.geo.satellite-nav,sci.space.news Subject: Navstar GPS Constellation Status (94-03-23) Date: 23 Mar 1994 06:06:26 -0800 Organization: UTexas Mail-to-News Gateway NNTP-Posting-Host: news.arc.nasa.gov Navstar GPS Constellation Status (94-03-23) Blk NASA Orbit Launch II PRN Internat. Catalog Plane Date Seq SVN Code ID Number Pos'n (UT) Clock Available/Decommissioned -------------------------------------------------------------------------------- Block I 01 04 1978-020A 10684 78-02-22 78-03-29 85-07-17 02 07 1978-047A 10893 78-05-13 78-07-14 81-07-16 03 06 1978-093A 11054 78-10-06 78-11-13 92-05-18 04 08 1978-112A 11141 78-12-10 79-01-08 89-10-14 05 05 1980-011A 11690 80-02-09 80-02-27 83-11-28 06 09 1980-032A 11783 80-04-26 80-05-16 91-03-06 07 81-12-18 Launch failure 08 11 1983-072A 14189 83-07-14 83-08-10 93-05-04 09 13 1984-059A 15039 C-1 84-06-13 Rb 84-07-19 10 12 1984-097A 15271 A-1 84-09-08 Rb 84-10-03 11 03 1985-093A 16129 C-4 85-10-09 Rb 85-10-30 Block II II-1 14 14 1989-013A 19802 E-1 89-02-14 Cs 89-04-15 05:02 UT II-2 13 02 1989-044A 20061 B-3 89-06-10 Cs 89-08-10 20:46 UT II-3 16 16 1989-064A 20185 E-3 89-08-18 Cs 89-10-14 20:21 UT II-4 19 19 1989-085A 20302 A-4 89-10-21 Cs 89-11-23 03:13 UT II-5 17 17 1989-097A 20361 D-3 89-12-11 Cs 90-01-06 03:30 UT II-6 18 18 1990-008A 20452 F-3 90-01-24 Cs 90-02-14 22:26 UT II-7 20 20 1990-025A 20533 B-2 90-03-26 Cs 90-04-18 23:13 UT II-8 21 21 1990-068A 20724 E-2 90-08-02 Cs 90-08-22 15:00 UT II-9 15 15 1990-088A 20830 D-2 90-10-01 Cs 90-10-15 00:39 UT Block IIA II-10 23 23 1990-103A 20959 E-4 90-11-26 Cs 90-12-10 23:45 UT II-11 24 24 1991-047A 21552 D-1 91-07-04 Rb 91-08-30 04:44 UT II-12 25 25 1992-009A 21890 A-2 92-02-23 Cs 92-03-24 11:00 UT II-13 28 28 1992-019A 21930 C-2 92-04-10 Cs 92-04-25 20:32 UT II-14 26 26 1992-039A 22014 F-2 92-07-07 Cs 92-07-23 19:43 UT II-15 27 27 1992-058A 22108 A-3 92-09-09 Cs 92-09-30 20:08 UT II-16 32 01 1992-079A 22231 F-1 92-11-22 Cs 92-12-11 14:49 UT II-17 29 29 1992-089A 22275 F-4 92-12-18 Cs 93-01-05 16:39 UT II-18 22 22 1993-007A 22446 B-1 93-02-03 Cs 93-04-04 05:20 UT II-19 31 31 1993-017A 22581 C-3 93-03-30 Cs 93-04-13 20:53 UT II-20 37 07 1993-032A 22657 C-4 93-05-13 Cs 93-06-12 16:15 UT II-21 39 09 1993-042A 22700 A-1 93-06-26 Cs 93-07-20 12:54 UT II-22 35 05 1993-054A 22779 B-4 93-08-30 Cs 93-09-28 19:29 UT II-23 34 04 1993-068A 22877 D-4 93-10-26 Cs 93-11-22 18:20 UT II-24 36 06 1994-016A 23027 C-1 94-03-10 Projected usable 94-04-18 38 To be launched on need in FY '94 33 To be launched on need in FY '94 40 To be launched on need in FY '95 30 To be launched on need in FY '95 Notes ----- 1. NASA Catalog Number is also known as NORAD or U.S. Space Command object number. 2. No orbital plane position = satellite no longer operational. 3. Clock: Rb = Rubidium; Cs = Cesium 4. S/A had been enabled on Block II satellites during part of 1990; S/A off between about 10 August 1990 and 1 July 1991 due to Gulf crisis; standard level re-implemented on 15 November 1991. Currently, PRN15 and PRN20 appear to have little or no S/A imposed. 5. Anti-spoofing was activated on 94-01-31 at 0000 UT on all Block II satellites. (ref. NANU 050-94042) 6. PRN number of SVN32 was changed from 32 to 01 on 93-01-28. 7. PRN03 is operating on Rb clock without temperature control. 8. PRN03 was set unhealthy on 94-02-27 at 0320 UT. It was unusable beginning at 0233 UT on 94-02-27 and will remain unusable until further notice due to "end of life testing." (ref. NANU 057-94059 and NANU 083-94059). It is unlikely that PRN03 will return to service. (ref. USNO) 9. The decommissioning date for PRN06/SVN03 is the date of termination of operations of this satellite (ref. USNO) and is about 3 weeks later than the date GPSIC gives for "deactivation". 10. The PRN06/SVN36 launch included the SEDS-2 tether experiment on the Delta II rocket body (object 23028, 1994-016B). 11. PRN09 was unusable beginning 93-10-15 1200 UT until 93-12-07 1940 UT due to testing. (ref. NANU 327-93288 and NANU 402-93341) 12. The power supply of PRN13 may have insufficient capacity to maintain L1/L2 transmissions during eclipse season. During this period, the L1/L2 transmissions of PRN13 may be turned off for up to 12 hours a day. (ref. NANU 285-92315) 13. The degraded C/A-code performance of PRN19 was corrected effective 94-01-04 at 0000 UT. (ref. NANU 343-93294, NANU 396-93337, and NANU 006-94010) 14. PRN24 was unusable from 94-01-23 1745 UT until 94-02-01 1516 UT due to a change in operational frequency standard from Cs to Rb. (ref. NANU 023-94023, NANU 029-94024, NANU 034-94032, and USNO)
タイトルや見出し項目について
Navstar(ナブスター)とは、GPS衛星の呼称である。 この表は、1994年3月23日現在のGPS衛星の配備状況を纏めたものだ。
Blk II Seqとは、ブロックII通番の意。 GPS衛星には幾つか世代があり、最初のブロックI衛星は「実験衛星」という位置付けだった。 ブロックII以降が「実用衛星」という位置付け。
SVN(Space Vehicle Number)は、衛星固有の製造番号のようなもの。 基本的には完成した順に打ち上げられるが、たまに都合で打ち上げが前後することがある。
PRN(Pseudo Random Noise) Codeとは、衛星に割り当てられた擬似ランダム雑音符号の系列番号。 この符号でスペクトル拡散変調(直接拡散)を行うため、同じ周波数を使っていても信号を弁別できるわけ。 SVNと異なり、PRNは同じ衛星でも変わったり、別の衛星に引き継がれることがある。
Internat. IDは、国際識別符号。
NASA Catalog Numberは注釈1にもある通り、NORADなどの物体番号としても知られるもので、地球軌道上にあるもの全てに(確かスペースデブリにも)付けられている番号。
Orbit Plane Pos'nは、軌道面の位置のこと。 GPS衛星は、地上約2万km上空をほぼ半日で周回しているが、その軌道は赤道面に対して約55度傾斜していて、同じ軌道に4つの衛星が投入されている。 さらに経度60度ごとに同じような軌道が6つあり、全部で 4 * 6 = 24個の衛星で全世界をカバーしているわけ。 ここでは衛星の軌道と位置をA〜Fと1〜4で示している。
ちなみに予備機も投入されているので、衛星全数は通常24を上回る。
Launch Dateは打ち上げ日。 UTは協定世界時のことで、グリニッジ標準時と思ってほぼ間違いない。
Clockとは、運用している原子時計の種類。 Csはセシウム原子時計、Rbはルビジウム原子時計を意味している。 Csは精度はいいがRbに比べて寿命が短いので、ブロックI衛星ではCs1台とRb2台が搭載されていた。 ブロックII衛星ではCs2台にRb2台が搭載されていたが、最近ではCsは搭載せず、3台のRbで賄っているようだ。
Available/Decommissionedは、運用開始日と運用停止日を表している。
注釈について
主なものをピックアップしてみる。
まず4番。 S/AとはSelective Availabity(セレクティブ・アベイラビリティ:選択可用性)のことで、測位精度を意図的に制御する(通常は精度を落す)技術。 スクランブルとは、ちと違う。 この誤差は、統計的手法を使っても打ち消すことは出来ないとされているが、それは衛星の軌道要素や時刻を若干狂わせることで実現しているからだ。 この機能はブロックII衛星から可能になり、1990年から運用され始めたが、1990年8月10日から1991年7月1日までの湾岸危機(イラクのクウェート侵攻)の間Offにされていた。 通常、戦時にS/Aを切るなどとは考えられないが、この時は軍用GPS受信機の配備不足を補うべく民生品も使われたため、このような措置が取られたと言われている。 その後1991年11月15日に元のレベルに戻された。
次に5番。 Anti-spoofing(アンチスプーフィング:対欺瞞機能)が1994年1月31日 00:00(UTC)から全てのブロックII衛星で機能している。
GPSは電波を利用して測位を行うため、上手く偽装した電波を発射すれば、敵の測位を妨害できる(誤った位置測定をさせることができる)。 Anti-spoofingはそのような妨害に対抗するための機能で、軍事用のYコード(Pコードを暗号化したもの)がこれを可能にしているようだ。
その他、温度補償のないRb原子時計で運用されている衛星があったり、注釈ではないが、打ち上げに失敗した衛星(SVN07)があったり、見ているとなかなか勉強になったものであった。
最近の動向
ある程度詳しい人ならご存知だろうが、測位精度を狂わせるS/Aは、2000年5月2日 04:00(UTC)から完全にOffにされている。 これはGPSの公益性に配慮したためだが、D-GPS(ディファレンシャルGPS)などが普及し始め、事実上S/Aの意味が薄れてしまったことが背景にある。
それともうひとつ、これはどの資料にも書いていないので私の推測になるが、S/AがなくてもAnti-spoofingがあるため困らない、ということもあるだろう。
つまり、米軍は敵がGPSを利用している場合、その地域で局所的に偽装電波を発射して敵の測位を狂わせることが出来る。 自軍はスプーフィング耐性のあるYコードを利用できるため、自ら発射する偽装電波の影響を受けることなく測位・進軍が出来る、という寸法だ。
近年ではさらにMコードの導入が計画されている。
参考URL
PRNコードに関して十分記述できなかったし、まだ他にも最新トピックがあるのだが、ここまで書いて疲れたし、読む方もしんどいであろう。
残りのトピックはまた機会があれば紹介するものとして、参考にしたURLを以下に掲載して結びとしたい。