FeliCaのクラッキング報道について

FeliCaのセキュリティについて、ちょっとセンセーショナルな報道があった。

 ファクタ出版は、同社が発行している経済誌「月刊FACTA」の1月号(12月20日発行)に「ソニー 暗号破られた『電子マネー』」という記事を掲載した。
(中略)
 記事ではFeliCaの暗号が危険な根拠として、(1)FeliCaは共通鍵方式を採用したため、公開鍵方式に比べて破られやすい、(2)現行FeliCaが採用しているEEPROMを利用したシステムではセキュリティのレベルが低い、という2点を挙げている。
(中略)
 ソニーではこの記事について、「暗号が破られたというのは事実無根。(中略)また、FeliCa内にはいくつもの暗号があるが、破られたという暗号がどれなのかも書かれていない。このような記事を書かれることは、会社として非常に遺憾だ」(ソニー広報部)

FeliCa応用システムの元関係者として守秘義務があるので報道以上に詳しい事は書けないけど、FeliCaが複数の暗号を採用しているのは事実。 そのひとつに公知の共通鍵暗号を使用しているが、破られたとしたらこれだろう。


現代の暗号は暗号強度を数学的に検証出来るよう、エンクリプションアルゴリズムを公開するのが普通だ。 アルゴリズムを非公開にしなければ強度を保てないようなものは、専門家の間ではまともな暗号とは見なされない。 だからFeliCaでも名の通った共通鍵暗号が採用されている訳だ。
そしてその解法が発見されたという話は聞かないから、クラッキングするには総当り方式しか手がない。
つまり今回の報道が事実だとしても、影響はクラックされたカードに留まり、FeliCa全体のセキュリティが危機に晒されてしまった訳ではない、というのが私の見立て。


「一度破られた暗号なんて不安」という向きには、過去記事でも紹介した通称"RC5 cracking effort"あたりをご覧になるとよい。(暗号解読プロジェクト - しまうま技研
解法が未発見で十分な鍵長があれば、例えある暗号文が破られたとしても、その暗号自体が無意味になるわけではない。